火砕流による厳美渓(一関市)
写真中央の東屋から注文する「空飛ぶ団子」が有名な一関市の厳美渓。
渓谷の上部にはかつての河床と思われる平らな岩盤面が。
これは溶結凝灰岩という硬い岩石です。
どこか長瀞の岩畳を思わせます。
700万年ほど前、日本列島がアジア大陸から分離してウルトラ活発な火山活動、地殻変動を行っていた時期の最終期あたりでしょうか。
この磐井川の上流にある栗駒山あたりの火山が大規模な火砕流を噴出させました。
大規模に噴出したデイサイト(安山岩と流紋岩の間ぐらいの粘り気の溶岩)質の火砕流はこの付近一帯を埋め尽くしました。
火砕流は数百度の後半に達しますから、どんどん堆積しながら、自らの高熱により堆積物を溶かしていきます。
溶けたあと固まったのがこの溶結凝灰岩の地層です。
数十mの規模で堆積した溶結凝灰岩も、その後、気の遠くなるような河川の侵食により削られ、現在、厳美渓と呼ばれる渓谷を作りました。
数百万年前の大噴火、現在は、景観美、と思うなかれ。
上流の栗駒山は、現在も詳しい火山ハザードマップが作られる現役の火山です。
この磐井川沿いの火砕流や火山泥流のリスクは、現在もしっかり存在します。
渓谷に目を転ずると、いくつも丸い穴が空いています。
これはポットホール(甌穴)といって、かつて河床だったところの窪みに、石がはさまり、その石が川の流れのなかで、窪みの中でクルクルクルクルと転がり続けるうちに、どんどんと河床の岩盤が削られ、こうして円形の窪みになったものです。
日々の努力の積み重ねが、いつしか岩をも砕くことを教えてくれます。
この厳美渓では、火砕流の熱で溶けたあとに冷える過程で収縮する際、岩石に直角に切れ目が入った方状節理も見事です。
平泉観光の際、同時に訪れることの多い場所だと思いますが、600万年前にこの場所で起こった大事件と、その後の気の遠くなる時間の経過で削られたさまざまな岩の痕跡にロマンを感じてみてください。
2019年8月
弁護士 永野 海