焼津市 防災学習室訪問記
弁護士会との災害協定の打ち合わせのため,焼津市の危機管理課さんをご訪問したのですが,その建物の1階に「防災学習室」なんてものがあることを,恥ずかしながらはじめて知りました。
場所は,焼津市消防防災センターの1階になります。焼津市の危機管理課は市役所の中にはないのですね(これは焼津市の場合特によいことです)。
この1階の防災学習室の横には災害対策本部室も置かれています。
ただし,手元のスーパー地形データでみる限り,この消防防災センターの標高表記は4メートル強です。海からの距離も近く,対策本部室が単なる会議室であればよいですが,重要な機械設備も設置されているようであれば浸水リスクが心配になりました。
(もちろん津波浸水予測エリア外ですが,ハザードマップを前提とする危険性は東日本大震災で全ての日本人が学んだ教訓です)
という余談はさておき,この防災学習室には,なんと最新の地震体験装置があります。
県の地震防災センターの地震装置は長らく故障中ですから(全面リニューアル時に復活するそうです),県内唯一の地震体験装置ということになります。
しかも最新!
最新の機械なので,熊本地震の体験もできてしまいます。
この手の装置はどこも様々な地震がプログラムされていますが,職員さんのご厚意で,①兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災),②新潟県中越地震,③熊本地震,④東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)と一通り体験させていただきました。
(職員さんもおっしゃられていたように),意外にも,揺れの時間は短いですが,一番瞬間的に激しく揺れたように感じたのは,中越地震でした。
こちらは私が大阪時代に経験した阪神・淡路大震災の揺れ。
中越地震の揺れと比べるとグラフはかなり大人しいです。
旧耐震の建物の多くが倒壊し,多くの圧死者をだしました。東日本大震災の犠牲者の9割以上が津波関連死であることとの大きな違いです。
海溝型地震と違い,直下の断層がずれる地震の怖さでもあります。
そして,これが東日本大震災のときの揺れ。
実際には190秒揺れたとされていますが(気象庁),ここでは45秒間の抜粋版です。
グラフでも大きく2度強い揺れがあったことがわかります。
この地震では,大別すると3回にわけて断層帯の破壊が生じましたので,この2回の大きな揺れは1度目の破壊,2度目の破壊に対応するのかも知れません。
地震の揺れの長さは,基本的に,マグニチュードの大きさにより影響されます。
たとえば,マグニチュード7であれば揺れは10秒間,8であれば60秒間,9であれば180秒間です。そのため,東日本大震災では約3分揺れたのです。
マグニチュードが大きいほど広い範囲の断層帯が破壊されていきますので(東日本では450kmにも亘って断層が動きました),それに伴って揺れる時間も長くなるわけです。
特に,東日本大震災のように日本列島からかなり離れた場所(日本海溝)で起こる海溝型地震の場合,揺れの「大きさ」「体感」自体は,実際に生じる被害ほど大きく感じられないことがあります。現に,東日本大震災では,地震の揺れそのものによる建物倒壊被害はそこまで大きくありません。
そのため,津波避難の判断を誤る危険があるわけですが,南海トラフ地震でも,揺れの「長さ」に必ず注目してください。
揺れが長い(たとえば数十秒)ということは,M8クラスの地震が「どこか」で起こっているということです。
海溝やトラフでM8クラスの地震が起こるということは必ず巨大津波がそのあとに来ることを意味するからです。
繰り返しますが,津波避難で大事なのは,「地震の長さ」を意識することです。
それと,今回の焼津市防災学習室の職員さんに教えていただいたことですが,地震体験装置は,「座って」体験することをお勧めします。
人間の身体というのはよくできていて,立っていると上手に揺れを身体が吸収しバランスをとります。そのため揺れにある程度「対応」できてしまいます。
他方,座っているとそうしたコントロールが難しいために,揺らされるがままに揺らされる,といった状態になります。
本当に地震の揺れの凄さを身体で感じるためには,スペースに余裕があればぜひ座って体験しましょう。そして,「いまから装置が揺れる」ということは忘れて,別のことを考えて不意打ちを感じるようにもしましょう(怪我のないようにご注意を)。
こちらの施設には,3D眼鏡による風水害体験装置まであります。
名古屋港の防災センターでも伊勢湾台風を疑似体験する同様の設備がありましたが,この焼津の施設の方が3D眼鏡による臨場感は上です(施設の新しさですね)。
目の前から自分に向かって様々なものがどんどん飛んできます。なかなかの迫力です。
高潮や土砂災害まで体験できればよりよいですが,子どもにはちょっと刺激が大きすぎますかね。
今回幸運にも,職員さんから,焼津市沿岸部の津波防災状況についてお話を聞くことができました。
沿岸部の全ての小学校かどうかはわかりませんが,少なくとも一部の小学校では,学校と児童の家庭が連携して,通学路における津波避難準備,具体的には,この場所で地震がきたらここに逃げる,この場所ならここ,あそこなら・・・,といった具合に,地図なども活用して家庭ごとの避難マップ作りを行っているようです。
また,SNSでも,焼津では,夏休みのラジオ体操のあとに,ブルーシートを広げて,子どもたちが上記のような防災マップをみながら話し合っている姿を見たことがある,という情報をいただきました。
すばらしい焼津市の取組みに感動しました。
万一,全ての沿岸部の小中学校で行われているのでないのであれば必ず全小中学校に広げてもらい,毎年毎年何回も取組み続けることで,釜石のように子どもらの命を守っていただきたいです。
釜石の津波防災教育を実践された片田敏孝先生がおっしゃっているように,大事なのは,子どもらが海を嫌いにならない,自分のふるさとを嫌いにならないよう,上手に津波避難について教えることです。
津波は怖いから,危険だから逃げなければならないでは,ふるさとを誇りに思えないし,また恐怖による防災は長くは続きません(人間の脳はそういう仕組みになっています)。
津波避難というのは,この素晴らしい恵多き海とともに暮らす,海の近くで暮らすことができる人間が当然持たなければならない「(形式的な)作法」だという風に教える片田先生の思想に共感します。
海はすばらしいもの。たくさんの恵を与えてくれるもの。その大自然と共に生きる上では,数十年に1回は,地震がきたら自分一人でもすぐに高いところに逃げる,この作法だけは守らないといけない,それが海と暮らす人間の生き方だ,と。
平成30年2月訪問
静岡市清水区 弁護士 永野 海