漫画家ニコ・ニコルソンさんによる漫画。

作者の実家は、宮城県の山元町にあるのですが、東日本大震災による津波で、実家が被災しました。

辛うじて流出までは免れたものの、1階が1メートルもの津波の汚泥に満たされ居住不可能に。

作者は当時東京暮らしでしたが、作者の母親と祖母が自宅内で津波に流されるも、なんとか助け合って自宅2階に避難し一命をとりとめます。

津波がひいたあと、自宅の屋内には知らない家の車のバンパーが漂着し、自宅の周囲には流されてきたよその家がいくつも。町は壊滅状態でした。

この漫画は、そんな厳しい状況の中、作者を含めた家族らが、山元町の自宅の再建にまで至る過程を、漫画家らしいユーモアを交えて(というよりほとんどがユーモア)描いた作品です。

確かに一コマ一コマは笑いとユーモアが支配しているので、笑顔で読み進めていけるのですが、この家族に起きている現実自体はもちろん壮絶です。

避難所生活で祖母はせん妄、認知症に、母親はステージ3の癌が発覚し手術と抗がん剤治療の開始、家族は1Kの仮設住宅の暮らしを強いられ、家の再建費用は需要が供給を上回り過ぎて非常識な金額に。

しかし、この家族がそれでも幸運だったのは、

1、家が流されなかったこと

2、同居家族が命をとりとめたこと

3、地震保険に加入していたこと

4、一時的にも身を寄せられる他県の親戚がいたこと

などです。

特に地震保険の加入により、家財保障も含めて約2000万円の保険金が支払われることが判明しました。

そのため、通常期の2、3倍という非常識な家の大規模リフォーム費用を支払うことができ、祖母を元の家の生活に戻してあげることができました。

この作品では、被災者の生活再建の過程のさまざまな法律問題を楽しみながら学べます。

地震保険のことはもちろん、住家被害認定(罹災証明)のことや、この家族が得た被災者生活再建支援金のこと、具体的には、基礎支援金100万円(全壊)と、修繕(100万円)の合計200万円についてもわかりやすく解説されています(多少細かな間違いはありますが許容範囲です)。

ボランティアによる自宅片付けや自衛隊の活躍などのありがたさについてもしっかり記述されています。

さらには、山元町の復興政策まで漫画で学べるところがすごい。

山元町では、津波で浸水したエリアを、海側から順に3つにわけられました。

一番海側は建築基準法39条の災害危険区域に指定し住居建築を禁止しました。

その次のエリアは、東日本大震災で2~3mの浸水をしたエリア。ここは、住民に対して、建替えるなら1.5mのかさ上げが義務付けられますが、修繕(リフォーム)ならかさ上げ工事は不要にしました。

作者の実家はこのエリア。実際には建替え必至の全壊状況でしたが、主要な柱と基礎だけを残すことでリフォームの枠組みで対処しました。このためかさ上げ工事は不要に(←この選択が防災上いいのかどうかはさておきます)。

そして、3.11で実際に浸水した中で海から一番遠いエリアは、新築時に50cmのかさ上げが義務付けられました(リフォームは無条件でOK)。

こうした復興まちづくりの制度についても知ることができ(地域により規制方法はさまざまです)、地震保険でどれぐらいの金額がでるのか、リフォーム費用がどれぐらい高騰するのか、支援金はいくらもらえるのか、家族間で、元の町に戻るのか転居するのかどんな議論がでるのか、避難所生活でどんなことが起こるのか、幅広い知識を得ることができます。

この漫画をみて地震保険の加入の大切さを知った人は無数にいるでしょうし、何より被災者の被災生活や生活再建までの道のりがどのようなものであるのかがよくイメージできるでしょう。

また、津波防災上の観点からは、地震後に絶対に海沿いの自宅に戻ってはいけないという教訓も教えてくれます。

この家族が命を守られたのは、ある意味では偶然にすぎません。

ともあれ、強くお勧めできる作品です。

平成30年12月

弁護士 永野 海