巨大地震はなぜ連鎖するのか(活断層と日本列島)

佐藤比呂志/NHK出版新書

著者は東大地震研究所等の教授です。小気味よく文章が流れていきます。

本書の内容的には,地震やプレートに関する基本的概念の解説に充てられている部分も多いですので通読する必要はないかも知れません。

本書で著者が言いたいことは,

・南海トラフ地震のような巨大な海溝型地震の前には,プレートのひずみの蓄積により,内陸型地震も頻発すること

・兵庫県南部地震(阪神淡路大震災・1995年)や,鳥取県西部地震(2000年),福岡県西方沖地震(2005年),熊本地震(2016年)はいずれも西南日本が南海トラフ地震に関わる活動期に入った表れである

・南海トラフ地震と内陸型地震は一体の1つのシステムとして把握すべき

・そのため2030年代に早ければ発生する南海トラフ地震だけでなくその前にくる内陸型の地震についても十分に警戒せよ

ということです。

とはいえ,巨大な海溝型地震との関係で発生する内陸型地震のメカニズムが明らかにされているわけではないので,予知などは難しく,鳥取県西部地震などはノーマークの場所であったことも認めています。結局は,日本列島のどこでも地震が起こり得る,という話になってしまいますので,危機意識を高く持つのも容易ではないですね。

本書では,第一線の専門家だけあって,プレートの動きなどについてもかなり詳しく解説されているので,とても勉強になります。

特にフィリピン海プレートについての言及は深く,ユーラシアプレートのそれぞれどのあたりでどのような潜り込みが生じ,どこにプレートの固着域があるかなど,詳しく解説してくれています。

この点は,関東平野の直下についての言及にも表れていて,関東平野においては,陸のプレートの下の浅い部分に相模トラフからフィリピン海プレートが潜り込み(若い海洋プレートなので軽い),その下に東側から太平洋プレートが二重に潜り込んでいるという複雑な構造になっていることが紹介されます。

関東大震災を起こした関東地震は,相模トラフでのフィリピン海プレートの潜り込みに対する陸のプレートの跳ね返りによるもので,つまりは東日本大震災と同じ海溝型地震によるものと説明されています。その周期は200年に1度が目安です。

フィリピン海プレートは,伊豆より西では北西方向に潜り込んでいるわけですから,これが関東平野に潜り込んでいる姿はにわかには想像しにくく,富士山あたりを境にかなり複雑な動きをしていることがわかります。こうした点が,このあたりの地震や富士山の噴火のメカニズムの解明が難しいことにつながっているのでしょう。

著者は,東北地方については,東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の発生による陸側のプレートの跳ね返りにより,圧縮の力を受けていた東北地方全体が解放されており,当分内陸型地震も含めて地震の可能性は低いと分析しています。ただし,今回の地震で動いた日本海溝の海溝軸の破壊による地震には注意が必要ともしています。

なお,著者は,北米プレートの境界位置について,通説のように糸魚川静岡構造線までとする考えをとっておらず,北海道の中部付近でユーラシアプレートと接しているとの説をとっています。難しいことは素人にはわかりませんが,グーグルマップで日本列島を衛星画像でみる限り,著者の主張は比較的すんなりと受け入れることができると思いました。

また,著者は,日本列島にある断層は,日本列島がかつてアジア大陸の一部だったときから今の日本列島の形に推移する過程でできた古傷とも表現しています。

断層といのは,外部から圧力を受けたときに一番最初にヒビが入る場所,と私は理解しているのですが,古傷であれば一番外圧に弱いでしょうから,むべなるかな,と思ったりもしました。

以上が本書のご紹介になります。

フィリピン海プレートについてより深く知りたい人,熊本地震のメカニズムを詳しく知りたい人,関東地震について関心がある人などは手に取ってみられたらいかがでしょうか。

 

平成30年1月 読了

静岡市清水区 弁護士永野海