川はどうしてできるのか/藤岡換太郎/2014/ブルーバックス

 

海洋研究開発機構(JAMSTEC←地球深部探査船「ちきゅう」のところです)におられた藤岡さんの著作はどれも読みやすく,わかりやすく,面白く,魅力的です。

このブログでも,「山はどうしてできるのか」,「三つの石で地球がわかる」(共にブルーバックス)を既にご紹介しました。

藤岡さんのブルーバックス3部作?としては,最後に読むべき本が,今回の書籍だと思います。

陸,山と違って,「川」というのは非常に研究が難しい分野のようです。過去の痕跡が残っていない,過去を知る手がかりが極めて少ない,そういう事情もあって,川を本格的に研究する研究者は少なく,そのため川についてわかっていることは,「山」などと比べるとはるかに少ないというのが実際のようです。

また,「山はどうしてできるのか」という著作は,ある意味では,プレートテクトニクス理論を,「山」という1つの視点(裏面?)から説明した本ともいえますから,最先端の知見とダイナミックな理論によってとてもわくわく度の高い読み物になっているのですが,

他方で,この「川はどうしてできるのか」というのは前述のような事情・背景もあって,どうしたら面白い読み物にできるか,という著者の試行錯誤が伝わってくるかのような章立て,構成になっています。

この本で特に面白かったのは,次の2つです。

1つは,分水嶺,あるいは日本の中央分水嶺の話。

(氷上回廊さんのHPより引用)

このような図を見られたことはあるでしょうか?

赤い線は中央分水嶺(中央分水界)といいます。

分水嶺という言葉は,「物事の方向性が決まる分かれ目のたとえ」として日常でもよく使われますね。

本来の意味は,この図のように,雨水が流れ落ちる先が分かれる境目のことです。

 

この赤い線は基本的に山,山脈のラインです。

日本の様々な場所に,(それは山頂であったり,時に普通の平地だったりしますが),分水嶺,分水界の標識や看板が設置されています。

この看板より左に落ちた雨は日本海に流れ注ぎ,これより右に落ちた雨は太平洋に注ぎます,みたいな。

極端な話,落ちる雨の場所が1cm変われば,その運命は大きく変わり,日本海と太平洋まで別れてしまう,と。この不思議な,またダイナミックな事実が,分水嶺が人生の喩えとして転じ用いられる所以でもあります。

本書では,多摩川の源流をたどるフィールドワークなどの中でも,この分水嶺の話が比較的詳しく紹介されていて,「お,分水嶺,自分もいってこの目で見てみたいな」と楽しく思わせてくれるのです。

もう1つは,川の流れの終着点が実は「河口」ではない,という話です。

著者は,プレートテクトニクス分野の専門家ですから,かなりの分量を割いてこの話を解説しています。

さて,川の流れの終着点が海とぶつかる川の河口ではないとしたらどこでしょうか?

たとえばそれは海溝やトラフ(トラフは海溝ほど深くない6000mまでの溝です)です。

天竜川を例にとると,諏訪湖からはじまった天竜川の流れは(著者は諏訪湖源流説にも異論を唱えていますが(笑)),最後,浜松市南区と静岡県磐田市の間をとおり太平洋に注ぎこみます。

普通の人はこれで川の流れは終わりだと思われるでしょう。しかし,実際には,その後も天竜川で運ばれる砂や泥の流れは続いています。

どこまで続くか? 実は南海トラフまで続いているのです。

 

(Wikipediaから写真引用)

こうした海底地形図でみるとわかりやすいでしょうか。川の流れが海のはるか沖合まで続いていますね。こうした海のなかのくぼみを「海底谷(かいていこく)」といいます。

実は,こうした事実がわかってきたのは,海底地形図が進化してきた比較的最近のことのようです。

 

先ほどと比べると少しわかりにくいですが,天竜川の河口から南海トラフまでのグーグル航空写真をみてみましょう。

下にある南海トラフ(溝です)まで,天竜川からの土砂の運搬路が続いていることがわかりますね。しかもいくつもの流路がみてとれます。

実際,南海トラフには,天竜川などから運ばれた土砂の堆積物が2000mも積み重なっています。

川の流れはまさに河口が終着点ではなく,海溝やトラフが終着点になっているわけです。

(そもそも南海トラフは堆積物がたまりすぎて海溝ほど深くなれずトラフを呼ばれているという事情もあります)

 

(海洋研究開発機構より引用)

これはインドの東側ですが,川が海まで続いているからこそ,この図のように,海底にも扇状地(扇状地は小学校で習いましたよね)ができるわけです。

もちろん川の水自体は,様々な成分を含む海水より密度が軽いので海水より上に流れ込むのが基本ですから,川の水そのものによって土砂が運搬されているわけではありませんが,川の延長にある通り道をとおって引き続き土砂が運ばれていくことになるわけです。

海底谷をどうやって土砂が流れるかは,さまざまな要因があります。そもそも天竜川で大洪水が起きた場合には,川の流れそのままの勢いで,100kmにもなろうかという速度で海底を土砂が流れていきますし,また,南海トラフまでの傾斜により土砂は高いところから低いところに運ばれることもありますし,地震などによる海底地すべりで運ばれることもあります。

長い長い時間をかけて南海トラフまで辿り着くのです。

 

では,南海トラフまで運ばれた天竜川の土砂はその後どうなるのか?

これまで何度も触れてきたように,南海トラフは,ユーラシアプレートとフィリピン海プレートがぶつかっていることによって生じている溝です。

海のプレートであるフィリピン海プレートは,毎年数センチずつ北上していますが(それによって伊豆半島も日本に衝突し,くっつきました),陸のプレートより密度が高い玄武岩でできている海のフィリピン海プレートがさらに海水を含んで重くなるために,陸のユーラシアプレートの下にどんどん潜り込んでいきます。

その際に南海トラフにたまった天竜川の土砂の堆積物はプレートと一緒に地球の中に入っていったり,あるいは入り込めなかった堆積物は「付加体」と呼ばれる塊となって,そのまま日本列島にくっつきます。日本列島はそもそもこうして少しずつ大きくなってきました。

 

地球の中に入っていた天竜川の堆積物は,またプレート運動によって生じる火山活動によって地上に戻ってきます。

そして,また風化,浸食作用によって川で運ばれ海に流れ(以下,延々と続く),・・・と壮大なる地球の循環が生まれていくわけです。

川もまた地球の活動の循環のために不可欠なピースなんですね。

 

静岡市清水区 弁護士 永野 海