日本キャニオンと十二湖(青森県深浦町)
10月某日の朝8時ころ、低気圧の通過により生憎の雨。
奥に見えるのは白い流紋岩質の角礫凝灰岩。
日本キャニオンとも呼ばれる火山灰の地層です。
場所は青森県の日本海側、深浦町。
地滑り地形によって生まれた湖を見に来ました。
ちなみに深浦町にジオサイトが集まっているのは、↑この海底地形図の皺と無縁ではないでしょう。
先程の日本キャニオンの写真は、上図の左側から東にむかって撮ったもの。
崩山は、白神背斜(はいしゃ・水平に積み重なった地層が両方から押され盛り上がった(褶曲)もの)山地の一部に属します。
東西から圧縮されて盛り上がって山になったんですね。
◇
そして、この崩山のあたりには南北の大間越断層(西側に落ちる正断層)が走っていますので、元々西側に崩落していく地質というべきなのでしょうか(私見です)。
崩山の基盤岩は花崗岩類ですが、その上に、日本列島がアジア大陸から切り離され、いまの位置まで移動してきた、極めて地殻変動が活発だった時期の海底火山活動でできた凝灰岩が乗っているのですが、これが酸性凝灰岩で特に脆いです。
そのため大雨が降るだけでもボロボロと今でも崩れるような地質ですが(ビジターセンターの方によると大雨が降ると大崩からゴロゴロと音が聞こえるそうです)、地震がくるとさらに大変なことになります。
ということで、ここにある十二湖(十二湖は名称で実際には33個の湖があります)は、崩山が地滑りにより大規模崩落を起こした結果、沢の水をせき止め生まれたものなのです。
この日は風速10m、時間雨量が時に10mm20mmという嵐で、飛行機の時間もあるのでとても全ての湖はみれませんでした。
道路際にある王池。
紅葉真っ盛り、水鳥も美しいです。
地すべりによる堰止め湖です。
バケツを引っくり返したような雨の中、行くのを躊躇しましたが、もののけ姫の舞台にもなった青池へ。
途中、鶏頭場(けとば)の池を通ります。
紅葉と霧の幻想的な風景。
崩山からの崩落土砂により、この鶏頭場の池も生まれました。
天気がよければ、この池からは背後の崩山もみることができます。
観光名所、それが生まれた瞬間の地球の営みを想像してください。
紅葉のシーズンなのに誰一人観光客がいない青池に到着しました。
前日、深浦のペンションに泊まったのですが、不思議にも、ちょうど夜、テレビで「もののけ姫」が放映されていました。
嵐の中、早朝に私一人。
本当に、シシ神様がでてきそうな雰囲気でした。
ここがもののけ姫の舞台の1つです。
33ある湖でも、このように美しい青をみせるのは青池だけです。
春は鏡のように木々を映す透き通った淡い青、その後秋にかけて青が深くなっていくそうです。
この日は秋の群青色ですね。
水は赤の光を吸収し青く見えますが、湧水がもたす青池の圧倒的な透明度と湖底の白い凝灰岩の反射により独特の青になっていると分析されています。
続いて日本キャニオンに向かいます。
途中、どの池だったか忘れてしまいました。
写真からも雨の強さがわかります。
しばらくすると雨が止んだので、そのタイミングを逃さず日本キャニオンの展望所へ。
こうした整備された道を15分ほど登ります。
あの嵐の直後でも、思ったよりぬかるみが少なかったです。
大自然のすごさ。
もう少しです。
これが最初に飛び込んでくる姿。
思わず心が震えました。
雨風による侵食で、自然の凹凸ができています。
紅葉に映える流紋岩質(←黒い鉱物が少なくて石英など白い鉱物が増えるので白い)の白!
さらに近づきました。
眼前は崖(しかも非常に脆い)ですからくれぐれもご注意を。
私の技量では、この信じられないような迫力を写真で伝えられないのが無念です。
幸田文さんの「崩れ」を思い出します。
圧倒的な自然の力と驚異が、荘厳な美しさをもたらします。
見ていると、恐怖と美しさの混ざったなんとも言えない何ものかに心をつかまれ、吸い込まれそうになります。
でも吸い込まれるとこの崖から滑落することになります。
ぜひご自身の目でご覧になってください。
日本キャニオンを後にすると、たくさん猿たちが。
子どもを背負っている母猿もいますね。
道添いには侵食された凝灰岩。
紅葉とのコラボレーションが見事です。
雨があがり、日本キャニオンの背後の崩山が姿を現してくれました。
崩山は、宝永元年(1704年)の岩館地震(M7、深浦で震度6以上と推察)で大崩壊し、崩落した土砂が堰止め湖たる十二湖を生みました。
江戸時代、青森秋田沿岸部は、M7規模の地震に4度も遭遇したのです。
日本キャニオンと崩山。
崩山の八合目、日本キャニオンの上(中央やや左側)に、灰色の山体が顕になった部分がありますね。
ここが大崩です。
現在も崩落が続いています。
観光地になるような景観の美しい自然の背後には、多くの場合、その瞬間に人間が立ち会っていれば大災害となるような地球の営みがあります。
観光地になると、そうした自然現象が自分とは、人間とは関係がない過去の話のように思われますが、別に、大きな自然現象がおさまった後に人間が誕生したわけではありません。
九州の縄文人もそのとき起きた破局的なカルデラ噴火により全滅しました。
それは明日どこで起こってもおかしくはないのです。
平成30年10月
弁護士 永野 海