かつてのカルデラの痕跡 鳳来寺山 ぶらり防災の旅
(愛知県新城市の鳳来寺山パークウェイ)
鳳来寺山は不思議な山です。
辞書的にいえば,標高は695m,愛知県新城市にあるかつての火山。中腹には鳳来寺があります,といった風情になるのですが,それにとどまらない地学的魅力があります。
鳳来寺のすぐ近くまで車でいくことができます。
駐車場から降りて鳳来寺に向かいます。
(参道から目にする山肌。流紋岩?溶結凝灰岩?)
鳳来寺山は,平成19年に日本の地質百選に選ばれています。日本の地質の名所を紹介する書籍では大抵紹介されています。
火山としての鳳来寺山が噴火したのは1500~1400万年前といいますから既に日本列島が現在の位置まで移動してきたころです。
(参道から目にできる山肌。きれいな地層がでています)
この頃の日本海の拡大による西南日本の時計回りの動きと、この動きとぶつかるフィリピン海プレートの北上の動きとで,日本列島が極めて活動的だった時期の話ということになります。
(鳳来寺山の中腹からの眺め)
鳳来寺山でもっとも目立つ通称「鏡岩」はデイサイトのようですが,山体の基本は,流紋岩から成るようです。
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鏡岩は溶結凝灰岩(カルデラを埋めた厚い火砕流堆積物)と説明している書籍もあります
(鳳来寺への参道からみえる鏡岩)
いずれもマグマが地上で冷えて固まる火山岩ですが,火山岩は,二酸化ケイ素の含有率が低いほうから高い方にしたがい,
玄武岩<安山岩<デイサイト<流紋岩
(写真左から玄武岩,安山岩,デイサイト,流紋岩 *いずれも新城産)
この順番に石英(二酸化ケイ素の結晶)の割合が増えるので,岩石の色は黒から白に変わっていきます。
(鳳来寺山の鏡岩)
流紋岩ということは白っぽいかなと思うものの,問題はそんなに簡単でもなく,鳳来寺山を形作る流紋岩の一部は,長い時間のなかで、水と結びついて松脂岩(しょうしがん)化しています。
これは流紋岩質のガラス質火山岩。黒曜石に非常に似ているぐらいなので黒いんです(灰色など様々な色もあります)。
学会的には,黒曜石よりも含水率が高いものを松脂岩と呼んだりするみたいです。
流紋岩質なのに黒いとか反則ですね。。。ただでさえ見分けられないのに。。。
(写真左が流紋岩,右は松脂岩 *いずれも新城産)
色が全然違いますよね。
(山ツツジがきれいに咲いていました)
さらにいえば,流紋岩というのは,実際には玄武岩や安山岩と違って,マグマが直接冷えて固まってできる場合よりも,高温の火山灰が堆積するとともに溶結してできた溶結凝灰岩(流紋岩質溶結凝灰岩?)の場合が多いとも書いています。
(鳳来寺への参道)
そうなると,もはや岩石の種別の基本として,堆積岩(←凝灰岩)なのか火成岩なのかすらよくわからないですね。。。
(写真左が流紋岩,右が溶結凝灰岩 *いずれも新城産)
確かに2つの岩石は似ていますね。
(参道からみえる山肌。凝灰岩の表面が風化して酸化しているのでしょうか)
他の書き物では,流紋岩=溶結凝灰岩と説明しているものもありました。
溶結凝灰岩といえば,以前紹介した宮崎県の高千穂峡の柱状節理です。
素人には難しいですね。
(鳳来寺東照宮にのぼる階段)
よくわかりませんが,一般的には,流紋岩というのは侵食に強いので,鳳来寺山などは,周囲の凝灰岩の部分は長年の侵食により削られ固いガラス質の流紋岩や安山岩の部分が残って,基本的に現在の鳳来寺山の独特の切り立った山体を形作っているのではないかと思ったりしています。
(鳳来寺本堂と鏡岩)
さらに鳳来寺山がすごいのは,ここは九州の阿蘇山のような爆発的なカルデラ噴火を起こした火山だということです。
このシームレス地質図をみてください。
青印が鳳来寺山ですが,その周囲が黄色い円形になっていますね。
これがカルデラの痕跡です。
(奥に鏡岩)
この鳳来寺山が爆発的な噴火をしていた1400万年前前後には,中央構造線の北側に沿って同様の活発な火山活動がみられました。
(鏡岩の拡大写真)
この火山活動のラインは,西は愛媛の石鎚山(個人的には2回登ったことがある思い出深い霊山です)から,香川,小豆島,二上山,室生,そしてこの鳳来寺山がある設楽という直線です。
(鳳来寺から山頂へ向かう登山道)
いまは火山フロントは,より北側の山陰のラインに移動していますが,以前はこのラインが火山のラインだったのです。
瀬戸内海に沿っていたので瀬戸内区などとも呼ばれています。
この瀬戸内区の火山活動で共通する要素の1つが,「流紋岩」なのです。
(山頂への登山道)
現在は死火山のように扱われていますがさてどうなんでしょうか。
地球のことはよくわからないですね。
(登山道からの眺め)
いずれにせよ,この愛知県という場所にかつてのカルデラ火山があったということ自体が大変な驚きです。
登山道の鳳来寺山らしい岩石と遠方の眺めです。
素晴らしいですね。
前日の集中豪雨の影響で,登山道は一部が滝のようになっておりかなり厳しいコンディションでした。
滑落の危険もあったため,この先あたりでこの日は登頂を断念しました・・・・
そんな鳳来寺山,ぜひ一度訪れていただき,流紋岩の山体や荘厳な鏡岩をぜひその目で確認し自然への畏敬を感じてみてください。
帰りには,次回ご紹介予定の鳳来寺自然科学博物館や,湯谷温泉もぜひおすすめです。
平成30年4月
静岡市清水区 弁護士 永野 海