飛水峡(岐阜県七宗町) ぶらり防災の旅
飛水峡(岐阜県七宗町)です。
有名な景勝地を,「きれい」,「すごい」だけで終わらせるのはもったいないですよシリーズです(^^)
とはいえ,この飛水峡。
その迫力にただただ圧倒されます。
これまでみた日本のどの渓谷よりもスケールが大きいように感じました。
この写真では,きれい,としか映らないかと思いますが,橋からはあまりの高さと岩石のスケールに思わず足がすくみます。
すいこまれそうな深さです。
ちょうど桜の時期。
桜,チャート,渓谷のコラボレーションを楽しめます。
極めて精緻で美しいチャートと砂岩の互層です。
この飛水峡は,ジュラ紀の付加体がみられる貴重な場所なんです。
(チャート層と桜)
ジュラ紀ですから日本列島がまだアジア大陸の一部だった時代。
その時期に,深海で堆積したチャート(放散虫の死骸などが堆積してできたとても硬い岩石)が海洋プレートに乗って運ばれてきて・・
(チャートの質感がわかりやすい写真)
大陸プレートに沈み込む際に,アジア大陸に付加された新しい陸地です。
海からきたのでこんな現在の日本列島の内陸にも深海のチャート層がみられるわけです。
どこまでもどこまでもチャートの層が続きます。
海の底にチャートが堆積する速度は,なんと1000年に1mm2mmの世界です。
これだけのチャート層ができるのに一体どれだけの時間を要するのか,ということに注目してみてください。
様々な色がみられます。
このあたりのチャートは青みがかっていて美しいです。
緑・青の粘土鉱物を含むとこういう色になるようです。
赤いチャートはよくみます,というかチャート=赤のイメージが結構強いと思いますが,これは鉄分が酸化したためです。
写真手前左にきれいな丸い穴があいていますね。
これは甌穴(おうけつ・ポットホールともいいます)です。
河床などの岩石の一部が水流で侵食され窪地ができたところに岩石(礫)が入ったあとに,水の流れでその礫が回転してどんどん周囲の岩石を削ることで,こうしたきれいな穴ができます。
甌穴ができたあとに,水面が下がったんですね。
飛水峡では数百もの甌穴がみられ観光名所にもなっています。
行き過ぎると谷底に転落しますのでくれぐれもご注意を。
ちょうどJR高山本線の特急が通過しました。
去り行く特急。
日本最古の石博物館の駐車場からもこのように渓谷美を眺めることができます。
相当な断崖です。
しかし,川幅が狭いので増水時には谷のかなり上まで飛騨川が満たすことになります。
こちらは飛水峡ロックガーデンの対岸,国道41号線益田街道のトンネル付近からの写真。
足がすくむとはこのことかと思うほどの光景です。
やはりジュラ紀付加体にみられるチャート層に圧倒されます。
この近くでは,1968年に,国道41号線の土砂崩れにより観光バス2台がこの飛騨川に転落し,乗員乗客107名のうち104名が亡くなるという歴史上最悪のバス事故が発生しています。
この集中豪雨による悲惨な事故を受けて,連続雨量による道路の事前通行規制も制度化されました。
「この道路は24時間連続雨量が・・」という看板がありますね。
104名の方の捜索のために,上流のダムの放流をストップし,川の水量をゼロにする対応までとられました。
飛水峡,飛騨川は,豪雨災害上も教訓となる痕跡地です。
様々な表情があり見るものを飽きさせません。
1億年,2億年という時を経て残るチャート層。
日本列島がどこから来て,どこに行こうとしているのかを教えてくれます。
こうしたプレートの動きが日本に災害をもたらす原因でもあります。
この対岸(南)側もこのように一部下に降りられる場所がありますが,先ほどの場所よりさらに危険ですのであえて訪問はされないほうがよいと思います。
飛水峡,なにも知らなくても十二分に感動できる絶景ですが,この岩石がなにで,一体どこからやってきたものなのかを知ると,一層地球のダイナミズムを感じることができます。
岐阜のみならず,日本全体で考えても必見のジオサイトだと思います。
平成30年3月訪問
静岡市清水区 弁護士 永野 海