◎豪雨時エリア全体に避難指示や勧告をだす問題について
(「2004 2014 年の豪雨災害による人的被害の原因分析」牛山素行より図引用」)
グラフは、静大の牛山素行先生による2004年から2014年の豪雨災害の犠牲者を分析された研究からの引用です。この研究(調査結果)をみたときに学びに満ちているなあ、と思いました。
豪雨災害で犠牲者がどこで亡くなっているか。土砂災害では屋内が大半です。他方、洪水時では、7割近くが屋外で亡くなっているんですね。
ここから導かれる教訓をシンプルに考えると、山崩れなど土砂災害のリスクがある場所では、豪雨時には速やかな事前避難がとても大切で、そうしたエリアは限定されていますから、平素から、土砂災害の危険がある場所の住民や就業者には、(ほかの場所と違って)あなたの家(会社)の場合は逃げないと危ないと、特別な場所であることのリスク告知と事前避難の訓練が必要です。
他方、洪水の場合には、7割近くが屋外で死亡しているのですから、一様にエリア全体の事前避難を呼びかけるのは、データから導かれるリスクに反する行動です。私が住む静岡市でも、避難勧告がでる場合には、数十万人に避難勧告などという結果になりますが、そもそもそんな情報で人は避難したりしないし、しかも、避難の呼びかけ自体が間違いです。
同じエリアでも圧倒的多数の家屋は、建物内の2階以上へ避難する垂直避難で命は助かるし、データからも、外に避難するよりもよっぽど避難行動としてリスクが低いのです。
行政や地域に求められるのは、あるいは自分自分で自分の命を守るために求められるのは、より詳しく、垂直避難では助からない可能性が高い場所の特定です(住民がそうした情報は地価を下げるとか風評被害といって怒り出すので行政にはなかなか難しい分野でもあります)。
土砂災害リスクエリアの人への告知と少なくとも同じ程度には、同じ◯◯市でも、あるいは、同じ◯◯川の流域でも、ほかと違って、あなたの住む場所は、垂直避難でも助からない可能性が高い場所なんだよ、という特定的な(限定的な)リスク告知が、本当に必要な事前避難を実施する第一歩ではないかと思います。
そうした調査研究に国や行政はもっとお金をかけるべきだし、躊躇せず情報提供するべきだと思います。
ただし、昨年の真備の洪水被害では、これまでの傾向と(一見)異なり、多くの方が建物内で犠牲になりました。3m以上の家屋浸水の中で犠牲になっており、この点についてはこれまでとの調査との関係を十分に検討する必要があります。
真備のあの場所は、上でいう、そもそも垂直避難では助からない可能性が高い場所ということであれば、そこにあれだけの数の宅地を開発すること自体が問題というべきでしょう。
2019年6月
弁護士 永野 海