石巻市の日和(ひより)幼稚園の津波被災事件のご遺族佐藤美香さんが書かれた愛梨ちゃん、珠莉ちゃん二人の姉妹の物語です。

私立の日和幼稚園は日和山という高台に立地しており、本来、石巻市を襲った巨大な津波からも、もっとも安全な場所のはずでした。

しかし、地震後、幼稚園は何を思ったか、幼稚園に園児をとどまらせる判断をせず、園児らを送迎バスに乗せ高台からバスを発車させます。

向かったのは園児らの自宅などがある海側の低地でした。

実は幼稚園のマニュアルでは地震後は安全な幼稚園で保護者に園児を引き渡すとされていましたが、訓練を怠っていた幼稚園では、そんなマニュアルの存在は誰も知りませんでした。

バスは混乱状態のままいつもとは違うルートをまわり、最終的に避難する住民の車の渋滞に巻き込まれ立ち往生をすることになります。

そのバスを津波が襲い、園児たちはバスの中で身動きもとれないまま約10時間後には火災にも包まれてしまいました。

母親の美香さんは、津波が引いた3月14日にようやく現地での捜索が可能になりましたが、当時6歳だった姉の愛梨ちゃんは火に包まれ焼け焦げ、生まれたときよりも小さな姿になっていました。

抱くと愛梨ちゃんはばらばらになってしまう。美香さんは命よりも大切な我が子の亡骸を抱きしめてあげることすらできませんでした。

人間は常に判断ミスをする存在です。しかし判断ミスにはあとから反省すればよいものと、絶対に取り返しがつかないものとがあります。

私は法律家としてもたくさんの東日本大震災関連の裁判例を学びましたが、この日和幼稚園の事案ほど、人災色が強い事件はほかにありません。

しかし、愛梨ちゃんにも妹の珠莉ちゃんにもご両親にも死ぬまで謝罪し続けねばならないはずの幼稚園側は、いまでも謝罪の意思を示さず、自らこそ被害者と、ご遺族である美香さんにも、謝罪する気は無いと言い放ったそうです。

人間の心を失ってしまった幼稚園は今後も変わらないのかもしれません。

代わりに、この時代に生きるわれわれ一人ひとりが愛梨ちゃんに謝らないといけない、とそのような思いにもなりました。

そして、この本を手にとり、やさしく面倒見の良い、いつも人を笑わせていた愛梨ちゃんの生きた足跡をしっかりとみつめ、二度と同じようなことを起こさないと誓わなければなりません。

この本はあの日何があったかを学べるだけでなく、あの日以降のたくさん人々のやさしさや善意にも触れることができます。

東日本大震災では466人もの10歳に満たない何の罪もない子どもたちが犠牲になりました。

子どもたちの命を守るのはわれわれ大人の責任です。

その責任とは、被災地や被災の現場から学び、二度と同じような犠牲をださないようひとりひとりが努力することです。

1000年に一度の大災害の記憶を後世に伝えられるのは、その大災害を経験したわれわれだけです。

津波から安全な場所にあると安心しきっている幼稚園、学校、職場ほど、自宅や帰路が危険な低地にある対象者を絶対に引き渡さない、帰宅させない訓練が必要であることを肝に命じてください。

 

(2018年12月11日 月命日に日和幼稚園でご遺族お2人と)

 

平成30年12月

弁護士 永野 海