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富士山噴火と南海トラフ(鎌田浩毅)

私は数年前に鎌田先生の「地学ノススメ」を読んだことが、防災を考える上での視座を得た(最初のきっかけ)だったと感じています。

自然災害による「結果」や「被害」や「予測」のような知識だけをいくら学んでも、本当にこの国で、自分や大切な人の命を守り抜く力や心根のようなものを得ることは難しいように思います。

大切なことは、自分がいま生きているこの地球や自然、目の前の山や足元の石ころに興味を持ち、知れば知るほどもっと知りたくなり、そして本当に好きになること。長大な地球の営みの中のわずか一瞬に自分が立ち会っているに過ぎないと知るとともに、その事実に感動すること。これが遠回りのようで、防災の第一歩だと強く感じます。

私はかつて野球少年でしたが、野球を好きになって練習すればするほど走塁でも守備でも死球でも怪我をしにくくなるのと同じで、地球を好きになり地球のことを知れば知るほど、自ずと自然との付き合い方、ショートバウンドの捌き方、死球の避け方もわかってくる(ような気がします)。

生まれてから30年以上、山はただそこにあるだけの物体としか見ていなかった自分に、鎌田先生は、山も平野も川も何もかも、46億年もの間生きている地球のその呼吸にあわせて、常に形を変えていて、自分たちは、いまそこにその形をして存在するその山や川にたまたま居合わせているだけだということを教えてくれました。

この本では、火山の噴火活動による様々なリスク(泥流、火山灰、山体崩壊、火砕サージ、溶岩流・・・)がとても詳しく、しかもわかりやすく解説されています。富士山を近くにして生きる静岡県民や首都圏の人たちには必須の知識です。

しかしその知識を知っても、本当に対策や避難という実践につなげるには、富士山がいまその形で眼の前にあることと、地球の活動との関係を正しく理解し、身体全体で感じていないと難しいと思うのです。

また、自然災害というのは、日々生きている地球や自然の営みの1つの側面に過ぎないということ。自然から得られる恵みと表裏一体であることを、身体全体で、”感じる”ことがどうしても必要になってきます。

鎌田先生はこの本の最後でその点についてかなり熱い文体で読者に語りかけておられます。

しばしば語られる、火山の恵みとしての「温泉」や「湧水」、「景観」だけでなく、さらさらとした富士山特有の玄武岩質の溶岩が流れくだったおかげで、人間が住むことができる広い(火山性)扇状地を作っているということもこの本の中で解説がありますが、日本人がこの変動帯の列島で住めている「平坦な場所」は、山間部でも沖積平野でも、気の遠くなるような時間軸の中で、定期的に発生する「大洪水」や「土砂崩れ」の結果であって、自然現象の「災害の面」だけを取り出して防災を語っても、人間の営みの前では、説得力がありません。

ぜひこの鎌田先生の新刊をじっくり楽しみながらお読みいただき、もっと地球を知る第一歩に、あるいは二歩目三歩目になり、とってつけたようではない、本当に自然を上手にかわし、いなして共存する防災の手法と意識につなげてもらえればと思います(いや、まず自分が学ばねば・・・)。

2019年7月
弁護士 永野 海

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