阿蘇という火山
(阿蘇の北部外輪山)
阿蘇のカルデラは、東西18キロメートル、南北25キロメートルにも及びます。
東京23区がすっぽり入ります。
直径2キロメートルを超える火口がカルデラと定義される中で、この規模は破格と言わざるを得ません。
写真では外輪山のごく一部を収めるのがせいぜいで、航空写真でしかその全容は伺えません。
阿蘇山の噴火史は600万年前に遡りますが、この巨大カルデラを作った噴火は、20数万年前から9万年前におきた4回の噴火です。
特に最後の9万年前のカルデラ噴火が最大で、そのときに阿蘇の火口から噴出された火砕流(噴出した軽石や火山灰など)は、平らにして換算すると、九州全体をビルの4~5階の高さで覆う量だと言われています。
阿蘇の火山灰は、北海道でも10cm以上堆積しているのです。
阿蘇の外輪山の中で有名な大観峰(標高935m)。
ここからは阿蘇のカルデラの巨大さを視覚的に実感しやすく、また阿蘇山を構成する5つの火山がお釈迦様の寝姿にみえることでも著名です。
春霞のように霞んでいますが、奥に阿蘇五岳(根子岳、高岳、中岳、烏帽子岳、杵島岳の5つの中央火口丘群のこと)がみえます。
お釈迦様の寝姿(左側が顔)にみえますか。
(阿蘇の北外輪山と陥没したカルデラ地形)
カルデラが形成されるには、火山の中のマグマが一気に外部に放出される必要があります。
一気に放出して中のマグマだまりが空っぽになることで、地形全体が陥没します。
写真で鍋の中のような空洞にみえるのは、地形全体が陥没した結果です。
カルデラの中は、つまりかつての火口です。
火口の中にいまでは人間が営みをはじめているということになります(人間の逞しさです)。
カルデラ噴火は、マグマだまり自体が爆発したものだ、と説明する人もいます。
いずれにせよ一気にマグマが放出される場合には、巨大な火砕流の形で外部にでてきます。
火砕流は、高温の火山ガスと火山灰や軽石が一緒になって流れ下りますので、抵抗が少なく、時速は時に100kmを超えますし、その温度も1000度に近い数百度に達します。
巻き込まれると命はありませんし、恐ろしいことに軽いので海をも渡ります。
実際、9万年前の阿蘇から流れた火砕流は海を超えて山口県にまで到達しています。
先程の写真が、阿蘇のカルデラのいかに一部しか表現できていないか、この図からもわかりますね。
阿蘇はさきほどの4回の大噴火がほぼ同じ場所から生じたため、このような巨大カルデラの形成につながりました。
阿蘇の外輪山は、阿蘇の巨大噴火の前から存在していた火山群です(先程の大観峰も70万年前に噴火した安山岩の溶岩による峰です)。
それらの外輪山より内側はすべてカルデラ噴火により吹き飛んでなくなってしまい、外輪山だけが残っているということになります。
さて、外輪山を下りて、中央火口丘をみにいきましょう。
中央火口丘というのは、巨大なカルデラ噴火が起きたあとに、まだ少し底に残っていたマグマの活動によって、カルデラの中に誕生する新しい火山のことです。
以前ご紹介した北海道洞爺湖(←カルデラ)の中島も。
姶良カルデラの噴火でできた鹿児島湾の中にそびえる桜島も。
みんな中央火口丘です。
中央火口丘の1つ、中岳(標高1506m)に登るスカイラインには、名産の赤牛(あかうし)の姿が。
続いてみえてきたチョコレートプリンのような山は、日本を代表する美しいスコリア丘である、米塚(こめづか)。
山焼き直後ですね。
米塚の奥にみえる外輪山の列も見事です。
スコリア丘は、マグマのしぶきのようなスコリアが積み重なってできた丘です。
上からスコリアが落ちてきて積み重なりますが、傾斜30度を超えると堆積せず流れ落ちていきますので、自然に傾斜30度の安定角によるきれいな円錐状の山ができます。
高さは80mしかありません。
単成火山といって、噴火は基本的に一度きりです。
伊豆半島の大室山も以前ご紹介しました。
さらに進むと、草千里の草原の奥に中岳の噴火口がみえてきました。
噴煙を上げています。
白い煙は、二酸化硫黄などの火山ガスを含んだ水蒸気です。
身体に有毒なためぜんそく、気管支炎、心臓に疾患がある人は立入禁止です。
また風向きによって立ち入りが規制されます。
この日は規制がかかっていませんでした。
周辺は火口から噴出された火山礫があちこちに。
どんな火山でも予兆なく水蒸気爆発やマグマ水蒸気爆発を起こすことがありますので、絶対安全はありえません。
突然の噴火には、避難壕で対応することになります。
御嶽山の噴火を思い出しますね。
以前訪れた雲仙の平成新山にも同様の避難壕がありました。
火口最寄りの駐車場に到着。
水蒸気の量はそこまで多くなさそうです。
火山ガスの量や風向きでの危険性を知らせるランプ。
今日は緑です。
緑は、体調不良な人は注意、です。
アグルチネートがよくみえます。
火口周辺も相当な迫力。
スケールが大きいです。
いよいよ中岳の火口へ。
すり鉢状の火口の中に大量の水蒸気。
火口の直径は、東西400m、南北900mだそうです。
水蒸気が薄れると、エメラルドグリーンの湯だまりが。
どれだけ熱いのかと思いますが、実際には平常時は50度~60度程度とのこと。
火山成分により、青森県の酸ヶ湯もびっくりの強酸性です。
現在活動している第1火口の周囲の迫力はやはりすごいです。
しかし9万年前のカルデラ噴火と比べれば、これでもその残り香にすらならないわけですが。
ここ1000年は、中岳は火山灰の噴出を中心とする比較的静かな時期にあたりますが、それでも定期的に噴火による噴石などで、複数の死者をだしています。
見学時には、詳しく最新の火山活動の情報をチェックするとともに、それでも避けられない突然の噴火による事故があることは常に認識しましょう。
火口見学のあとは阿蘇火山博物館もお勧めです(この日は時間の関係で断念)。
阿蘇山、熊本空港からは比較的便利ですので、少し事前学習した上で、巨大な自然の力を感じる旅をしてみてください。
平成31年3月
弁護士 永野 海