糸魚川静岡構造線の新倉の断層露頭(山梨県早川町) 訪問記
災害問題に携わっていると,自然に,地学への関心が向くようになります。皆がそうなのかはわかりませんが,少なくとも私はそうなりました。
地震,噴火,津波,洪水,これらは遠い過去から繰り返し起こってきたもので,地学はその痕跡から情報を与えてくれ,将来の災害に備えるヒントをくれるからです。
この写真をみて,これが何だかわかる人はほとんどいないでしょう(笑)
これは,西日本(西南日本)と東日本(東北日本)を分断する糸魚川静岡構造線の断層露頭部分です。
上記の図のように,糸魚川静岡構造線は,北は新潟の糸魚川市,南は(諸説ありますが)静岡市の安倍川あたりまでを南北につらぬく大断層かつ地質の境界です。
地質の境界というところがポイントで,地質学の調査により,この構造線の西側と東側の地質が全く異なることがわかりました。
現在もっとも有力な理論であるプレートテクトニクス理論(地球は10数枚の固い岩盤で構成されていて,各プレートは常に動いているという考え)によれば,この構造線の西側はユーラシアプレート,東側は北米プレートにあたります(糸静線の南側についてはまた少し状況が違いますが)。
もともと離れていた西日本(正確には西南日本)と東日本(正確には東北日本)が*,この2つのプレートの動きによりくっついたわけです。
*もっと遡れば日本列島は中国大陸とつながる一体の大陸でしたが・・・
そして,この2つのプレートがドッキングした際に,2つのプレートが押し合って,この構造線の西側のアルプス山脈が,「うにゅ」っと隆起して出来上がったのではないかと思います。(そういう説明をしている文献が複数あります)
長野県の美ケ原の山頂あたりからアルプス山脈をみると,
壁!
という感じですが,
こんな感じ。
これがプレートの衝突で,うにゅ,っと盛り上がったと思えば,うんなるほど,と納得できます。
フォッサマグナミュージアム資料より
これが,糸魚川静岡構造線を上からみた図。
構造線の西側はアルプス山脈です。
うにゅ,っと隆起。
「地学ノススメ」という鎌田浩毅先生の本に書いてありましたが,武田信玄は孫子の「動かざるごと山の如し」という言葉を使ったが,実際には,地学的には,動くこと山の如しが正解で,山というのは,全て地球が動いたことによってでてきているもの,と。
出典同じ。
断面でみるとこんな感じ。
構造線の東にはU字の谷ができていて(深さ6km!),そこに新しい地層が堆積しています(薄緑の部分)。
これをフォッサマグナと呼んでいます(昔,習いましたよね)。
プレートでいえば,この構造線の西側はユーラシアプレート,東側は北米プレートです(繰り返しますが)。
プレートの境界(他説もあります)ということは,東日本大震災を思い出すまでもなく,地震が生じるイメージがありますが、ここは陸のプレート同士の境界で、東日本大震災を引き起こしたような海洋のプレート(太平洋プレート)が陸のプレート(北米プレート)の下に潜り込むことで生じる海溝型地震は発生しません。
ただし、この構造線付近は,たくさんの断層が集まっていますので、たとえば白馬村,小谷,飛騨などでは繰り返し地震が発生しています。プレート同士の衝突などにより常に地面に応力は生じていると考えてよいと思います。
また,プレートの境界、というか、断層帯ということは,地下で生じた熱水の出口があるということですから(断層の隙間に沿って熱水が上がってくる)、このあたりでは良質な温泉がたくさん湧いています。
有名なのは,この断層露頭の近くにある,奈良田温泉(早川町)。
歴史は古く,諸説ありますが,奈良時代の女帝,孝謙天皇が湯治に数年滞在していたという伝承まであります(だから,奈良田温泉,といいます)。
早川温泉にしても,52号線沿いにもたくさんよい温泉がありますよね。
さて,写真に戻ります。
これが先ほどの新倉断層の露頭部分のアップ。
斜面の崩落により以前よりは境界が明瞭ではなくなってしまってはいますが。
左側が西南日本、右側が東北日本です。
天然記念物に指定されたからか,現地には,わかりやすく,矢印まで設置されています。
ここまで明確に断層が露頭している例は珍しく(ましてや日本列島の東西結合部分!,あるいはプレートの境界!),非常にわくわくします。
私が訪れたときにも,数十人規模の小学生の集団が先生の引率で見学にきていました。
最高の学習材料ですよね。
車でいける距離の方はぜひ一度,温泉の帰りにでも訪れてみてください。
先ほどのフォッサマグナミュージアムの断面図のようなもをみた上で,この断層露頭をみると,この下がどうなっているか,ここがどういう日本列島の境目なのかが想像できるわけです。
それが地学のロマンです。
ちなみに,グーグルアースなど衛生画像でみると,中央構造線ほどではないにせよ,糸魚川静岡構造線のラインは,誰がみてもある程度わかります。
びっくりしますよ。一度お試しを。
断層というのは,防災に若干なりとも関わる身としては,とても怖い存在,ときに憎い存在なわけですが,同時に,地球が生きている証というか,地球そのものだと思います。
大谷崩の山体崩壊跡と同じく,こうした大自然の姿を目の当たりにして,自然に感謝するとともに,自然を正しく恐れることがとても大切ではないかと思います。
H29.8訪問
静岡市清水区 中央法律事務所
弁護士 永野 海