「人類と気候の10万年史」 中川毅著

 

防災では,数年に一度の災害,10年に一度,30年に一度,100年に一度の災害を意識し,時に東日本大震災のような1000年に一度の大災害にも目を向けます。

そして周期が長い災害ほどどのように後世に伝えるかという課題に挑むわけですが,本書がみせてくれる世界は1000年を遥かに超えた1万年,10万年の世界です。

 

この本は,主として,福井県の水月湖の湖底で発見された7万年以上にわたりきれいに堆積された堆積物(年縞と呼びます)をめぐる話です。

様々な要因により奇跡的に保存されたこの年稿の縞模様を読み解くことで(樹木の年輪のようなものです),過去10万年の世界に何が起きたのかが非常に詳しくわかってきました。

今後の世界の気象変動の予測にもつながるもので,この水月湖の年稿が,世界において,10万年を刻む標準時になっています。

水月湖の年稿という極めてミクロの世界が,地球の10万年史というマクロの世界を鮮やかに語るさまのダイナミックさにしびれます。

 

しかし,この本の冒頭に一切水月湖の話がでてこないことが象徴しているように,この中川先生の視点は実に文系的というか哲学的というか,非常にユニークで語り口も魅力的です。

そういう世界のことはよくわかりませんが,きっとこの先生は学会とかそういう世界で少し異端として扱われているのではなかろうかと感じるところに,この本の一層の魅力があるように感じました。

湖底の縞模様から,防災のヒントも,人間の生き方のヒントも,宇宙を見るヒントも与えてもらえます。

そして,宇宙をみる視点は,さらに100万年,1000万年,1億年,10億年と続きます。

 

学ぶということは楽しいことです。

昔は,ヘーゲルだスピノザだと感動したものですが,人生の年稿を1年また1年重ねるにつれ,断層露頭も地層もそうですが,もう少し現実的な痕跡から地球や宇宙や人間や私の存在を感じ,考えることを渇望しているのかもしれない,と思ったりもするのでした。

 

静岡市清水区 弁護士 永野 海